大きくする 標準 小さくする
前ページ

2007年08月31日(金)更新

その2:盗作とインスピレーションの境界線

以前のブログのエントリーでも、
「見る目を養うためには、とにかく良いものをたくさん見て感覚値を
定量化する訓練を積む事だ」
と書いたことがある。

http://crossmedia.keikai.topblog.jp/blog/121/10000644.html

すでに仕事の上では自分でデザインを起こしたりすることがほとんど
なくなってきたが、「良いものを見続けること」はすなわち自社のスタ
ッフや協力会社のクリエイティブに対する「タイマン(一対一の勝負)」
なのだ。

昨日のような例に限らず、ベンチマークスタディをしていると「おや?」
どころか「おいおい」ということも少なくない。
2000年前後のことだが、米国企業を中心に企業のウェブサイトに
変化がおき始めた。
それは「ブランドサイト」と「コーポレートサイト」をドメインから分ける、
というものだ。
日本でも2000年の連結会計制の導入に伴い、ホールディングカン
パニー化が進み、同様の分化傾向が加速した経緯がある。

当時、ある米国のカジュアルウェアブランドはそのような「サイト分化」
の先駆的な存在で、それぞれのサイトの内容もデザインも、棲み分け
が明確だったのだ。
ならば日本ではどうだろう?ということで、日本で有数のカジュアル
ウェアブランドのサイトを見て驚いた。
なんとその企業も「ブランドサイト」と「コーポレートサイト」をきちんと分
けているところまでは良いのだが、ブランドサイトのデザインは、ロゴの
位置、機能部分の位置、インターフェイスの位置、ビジュアルの構成
まで「ドンズバ」なのだ。

当時、ショッピングセンターのオリジナルブランドのフリースの売り場
のデザインが自社の店舗にそっくりだ、と訴えていた、その企業が、
である。
トップマネジメントが知らずにやっていたとは到底思えないのだが。

しつこい私はその米国カジュアルウェアの日本法人のCIOにあたる方
にコンタクトを取り(オフィスがたまたま近所だったということもあったの
だが)一緒にランチをして、この件に関して質問してみた。
すると、
「社内の人間は皆知っている。企業として尊敬する対象と見ていない」
その一言だけだった。

ただ、アパレルの場合、製品のデザインそのものを似させることで「トレ
ンド」を盛り上げる、という原初的な傾向もあるため、一概にオリジナリ
ティの追求だけを問うことも出来ないのかもしれない。

当時出始めた、いわゆる2プライス・スーツショップは皆グレー基調で
フレーム固定のフラッシュインターフェイスだった。どうして?と調べて
いくと、オリジナルはバーニーズニューヨークのウェブサイトと判明した
こともある。

一般的な企業サイトにおいても、現在ではアクセシビリティやユーザビ
リティ、クロスメディア・アプローチもあり、何でもかんでもひとつのサイト
に情報を詰め込んでしまおう、という傾向から離れつつあるようだ。特
に米国企業では、ここ数年、情報量の整理が進み、各社ともきわめて
シンプルになってきている。それでも海外企業のウェブサイトはデザイ
ン面でもコンテンツ、アプローチも均質化せず、独自性を出すために腐
心しているのだから、日本の企業でもコミュニケーション担当者が主体
になり、自社のアプローチをしっかり作りこまないと、その時々の最適化
ばかりに終始していては、ますますユーザーの気持ちと乖離してしまう
のではないかと危惧する。

2007年08月30日(木)更新

盗作とインスピレーションの境界線

いまから9年ほど前の話だが、私が独立したばかりの頃に友人の
ベンチャー企業の広報サポートをやっていた。

その会社のウェブサイトを立ち上げるために、すでにデザイナーに
提案を頼んでいるというのだが、オンラインコミュニケーションの専
門家として、一緒に評価してくれないか、と頼まれた。

やってきたデザイナーは若いが、自分なりのポリシーを持って
デザインしている、と、自身の提案のコンセプトを語りだした。

しかし、その提案画像を見たとき、わたしは思わず自分の目を疑った。
そこにあったものは、たまたま最近チェックしていた、当時新進気鋭
といわれたカリフォルニアのウェブデザイン会社の企業ウェブサイト
そのものズバリだったのだ。
ひととおりのプレゼンテーションが終わり、私は意を決してゆっくりと
話した。

「○○さん、先ほどあなたはこのデザインのコンセプトを色々と説明
してくれたけれど、僕には○○○(米国のウェブデザイン会社)のサ
イトと同じに見えるんだけど、どういうわけ?」

まさかそんなことを言われると思わなかった彼は、見る見る顔が赤
くなり、言い訳もせずに素直にそのことを認め、詫びた。

私が一番腹立たしかったのは、彼の自意識のなさ、だ。
このクライアント会社は、設立当初より米国の大学教授や教育学会な
どと交流していた会社だ。
もし、そのままこのデザインでオープンし、第3者にそのことを指摘
されたとき、彼にはクライアント企業のブランドを損ねた責任を取る
ことは出来ないはずだ。

企業のコミュニケーション担当者で、世の中のウェブを見まくっている
人など少ないはずだ。
(わたしはサラリーマン時代からそういう癖がついていて、同僚から
「君の仕事はネットサーフィンかい?」といわれたぐらいだ)

まず業者に仕事を発注する際、コンセプトのオリジナリティを問う前に
使う写真、デザイン意図に他社との類似性や相似が生じないように
気をつけて欲しい(もしくは万が一の際の訴訟責任を負わす)、と一
言謳うべきだ。

現代はウェブサイトの開発の規模も大きくなってきていて、代理店や
元受の制作会社が孫受けに発注する、ということも増えてきている。
予算のきつい中、できるだけマージンを稼ごうと思えば、デザインの
アイディアを練る行程や写真(著作権フリー)、イラスト(トレース)など
が起きる可能性は高い。

最終的には末端のデザイナーやイラストレーターの意識や倫理性を
問うところまでいってしまうのだ。

以下の参照サイトはイラストの盗用を集めたサイトだが、これを見
れば、私の言っていることが決して大げさなことでないことがわか
ってもらえると思う。かなりの大手企業が含まれている。
ウェブサイトに関しては米国で告発サイトも出来てきた。
日本でも誰かがすぐに追随するのではないだろうか?

http://www.artparadise.com/museum/index2.html

http://www.hotwebmagazine.com/24

http://pirated-sites.com/vanilla/
(下記は上記のサイトを見やすく画像配置したもの)
http://flickr.com/photos/34923023@N00/

2007年08月29日(水)更新

コミュニケーションのあり方

ちょっと古い話かもしれないが、今回の参議院選挙で自民党が負けた
原因のひとつに、議会制民主主義を踏みにじるような「強行採決 の連
発」というものが取りざたされている。

この状況を、国民は「コミュニケーション能力の欠如」と捉えたのだ。
皮肉にも、このことの重みを、自民党はあとから気づくこととなったわけ
だ。
数の論理で押し切れるのは与党の特権なのかもしれないが、あくまで
議論を重ね、全員の納得はないにせよ、野党の反対意見に「聴く耳」を
持つこと、対応すること、検証することが、あたりまえだが重要なのだ。

このことを企業に重ねてみても、同じことが言える。実際に現場のプロ
ジェクト関与者の同意を100パーセントとりつけて進む、ということは難
しい。
では、それを解決するのに必要なものは何か?
判断力に優れた有無を言わさぬリーダーなのか?

ひとつのヒントを学んだのは、やはり以前お世話になった会社のマネジ
メントスタイルだ。
この会社は会議が多い。ビジネスのスピードが要求される現場において、
常に明確な判断をし、必ず短時間で、時間内に結果を出すことが要求さ
れる。そのための考え方(ルールではない)の共有が基盤にあるのだ。

このことはアンディ・グローブの著作にも詳しい。
インテル経営の秘密―世界最強企業を創ったマネジメント哲学 (単行本)
アンドリュー・S. グローヴ (著)


多くの企業が、このコミュニケーションスタイルを真似ようとするが、ルール
や仕組み、テクニックやノウハウとしか捉えないと失敗する。

単純なことだが、議論のポイントで当事者同士が「お互いに向き合った議論
をしない」ということが重要なのだ。すなわち、議論の落としどころが個々人
の考えの相違の確認ではなく、必ずチーム全体で共通しているゴール(同じ
方向)を見据えて発言しているか、というところだ。

その考え方の具体的な例として有名なのが「建設的対立」という視点と、
「disagree but commit(賛成しないが目標達成は約束する)」という業務遂
行への強力なコミットメント。

詳細は私が語るには冗長なので、日本におけるインテルの歴史を知る代表
者、傳田さんのコラムに譲る。ぜひ参照してみて欲しい。

いま、「コミュニケーションが重要だ」と考える経営者は、ツールやテクニック
に走る前に、「考える基盤」からその会社なりの「コミュニケーション文化」を
作っていったらどうだろうか?

傳田流成功法
第9回 トップダウンの目標設定が必要 / Intelの結果主義とは

2007年08月28日(火)更新

秘密の滝つぼに入るには3年待て

高校時代に美術研究所の合宿で始めて連れて行かれた西丹沢。
人工的に作られた湖には何本かの川が流れ込んでいる。
そのうちの1本の川に沿って10キロの林道がある。

林道は治山工事の車両以外は通行止め。のんびり歩くと県営の
大きなロッジがある。
すなわち、この道を通うほとんどの人はこのロッジを足がかりに
山登りをする登山・ハイキング客だ。

18から数えて20数年、ほぼ毎年通ったキャンプサイトがこの
ロッジの裏手にある。
通り過ぎる登山客がほとんどなので、広々とした川原を独占でき
る優雅なキャンプ場だ。(そのかわり設備は皆無)
春には山桜と山吹が色を沿え、秋には無尽に流れる星を眺め、
そして夏には秘密の滝つぼで沐浴できるのだ。
この滝つぼはキャンプサイトから徒歩30分。隣の支流沿いにあ
るのだが、まさに秘境。
3メートルほどのなだらかな滝と、5メートル四方で深さも5メートル
ぐらいの小さな滝つぼがある。乗り越えて上に上がれば、さらなる
景観が待っているが、それは行ってのお楽しみにしておこう。

夏の山歩きを越えてこの滝つぼにたどり着くと、みな、自然とパン
ツ一丁(海パン持参)になる。キンキンに冷えた水につかると、
1分ぐらいで頭が「カキ氷を急に食べて頭痛」状態になるのだ。
夏の盛りでも、ほとんど発泡寸前のペリエのような冷えた水で、
体の汗や油が一気に抜ける。飛び込むと目の前でヤマメの群れが
すっと散り、そしてまた集まってくる。

以前、初めて参加した女性(友人の彼女)が水着を忘れたのだが、
みんながあまりに気持ちよさそうで、見ているのに耐え切れず、
Tシャツと下着で飛び込んだぐらいだ。

しかしこの林道、途中に素彫りのトンネルがあり、最近そこに
亀裂が見つかったということで向こう3年ぐらい、林道が通行
止め、ロッジも営業停止となってしまった。
子供が歩けるようになったらまた行きたいと思っていただけに、
この夏に調べてニュースを知ったときはちょっとショックだった。

まあいい。神奈川県の計らいで20年以上林道を車両通行止めに
しているおかげで、西丹沢は荒れることもなくおおらかな自然を
維持してきたのだ。3年ぐらいは待つとしよう。

2007年08月24日(金)更新

製造業における危機管理

昨日、30年以上前に製造した三洋電機の扇風機の発火で火災がおき、
2名の方がなくなる、という事故が発生した。
ニュースでは、ひな壇で頭を下げる社長の姿を映していた。

この場合、被害者親族が製造責任を問うて民事訴訟をするか不明だが、
基本的に社長は陳謝しているものの、サイト上のコメントはあくまで

「経年劣化が原因で、品質不良ではない」

としているところがポイントだ。
たしかに30数年前の製品では、パーツの経年変化で、特に動力部品
を持つ機械においてはショートや発熱、発火が十分考えられる。

ニュース記事でもそのあたり(かなり古い製品の事故)ということを考慮
してか、もちろん三洋電機の製造責任やこの製品の安全性そのものに
ついて糾弾しているわけではないが、

「安全性について利用者への周知の在り方が問われそうだ」

と書いている。しかし、これは簡単なことではないと感じる。

我が家でも「家電製品は壊れるまで使う」というのが基本で電子レンジは
88年製(20年!)で健在だ。しかし、テレビが煙を吹いたこともあるし、
洗濯機もモーター付近から焦げ臭い匂いがするようになって変えた。
電子レンジだってどのような壊れ方をするかわからない。

PL法から考えれば、食品と同じように「賞味期限」を持たせるべきなのか?
現在は製造中止から一定期間の部品の確保と修理の保障は義務付けら
れているが、その保障期間を過ぎた商品に関しては使用をやめろ、という
のも、どう徹底し責任を持つのか、企業の立場で考えると頭が痛いことだ。

コンセントからインターネットに接続される日も遠くないとすれば、すべての
家電製品にマイクロチップが埋め込まれ、一定期間を過ぎるとアラートが
出たり、動かなくなったりするのかもしれない。

しかし、毎日使う電子レンジのパネルに

「この製品の寿命はあと400日です」なんて書かれたら、気分は良くない
なあ。
«前へ
<<  2007年8月  >>
      1 2 3 4
5 6 7 8 9 10 11
12 13 14 15 16 17 18
19 20 21 22 23 24 25
26 27 28 29 30 31