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2006年09月12日(火)更新

芸術起業論 (単行本) 村上 隆

芸術起業論 (単行本)
村上 隆

現在は企業コミュニケーションのお手伝いをしている私ですが、元々は
美大のデザイン科を卒業して最初の10年は工業デザイナーをやってい
ました。

同級生には絵画科や彫刻科も多く、当時ほぼ100%大手企業に就職
できた工業デザイン専攻とはちがい、彼らの多くは教職につくか、日銭
を稼ぎながら年に数回個展や展覧会を開く、といったライフスタイルでし
た。

その中で一人だけ、非常にマーケティングセンスに優れた女性がいて、
彼女は積極的に現代美術ビエンナーレ等の活動をやっていました。

うがった見方をすれば、自分を売り込むために何でもやるのか、というよ
うに見られなくもありませんでし、友人の間では少々浮いた存在に見られ
ていましたが、現代美術を取り巻く世の中がどうなっているのか?その中
で自分が生きていくためには何をすればよいのか?
考えれば至極当然のことを彼女はやっていただけでした。

逆に自分の芸術だけを信じ、「いつかは認められるときが来る」と思って
続けている友人も、30代半ばを過ぎてのフリーターライフはきつく、ひ
とり、また、ひとりとそれぞれ仕事を持つようになって行きました。

村上さんのこの本はとても明快でした。
現代美術を志すひとだけでなく、なにより働く価値の転換期にある現代
においては、すべての人に共通する「知っておくべきこと」が書かれてい
るような気がします。
もはや終身雇用の時代ではなく、企業は自分の人生をゆだねる寄る辺
にはなりえません。
自分が何をやりたいのか?そこで成功するためのアプローチとは?
そんなヒントが書かれています。

特に、
「なぜ日本の芸術家が世界に通用しないのかというと、文脈の設定に対
する理解不足と人間と人間の勝負に弱い」
という文章には、
単に作品の芸術性そのものだけでなく、自分の表現やアートにどういう価値
があるのか、ということを相手に伝えるコミュニケーション能力(プレゼン
テーション能力)が重要だということが伝わってきます。

それは芸術だけの話ではありません。

「そんなこと、言わなくても常識だからわかってくれるだろう?」ということで
はビジネスは成り立たなくなってきているのです。

「好きなように生きる」と「自分の興味を究明する」は違う、と説きます。
文脈の歴史の引き出しを開けたり閉めたりすることが新しい価値を生むので、
引き出しを知らずに作られた芸術作品は「個人のものすごく小さな経験則の
ドラマに過ぎない。そんなものは小さな浪花節だ」といいます。
歴史を学習して始めて自由な表現ができる。とも。

私たちはもっと伝達(コミュニケーション)能力をみがかなければ、いつまで
たっても世界共通の土壌で戦えない。

私は仕事で、主に企業のオンラインコミュニケーションを見ています。
「インターネット」といいながら、真にインターナショナルなコミュニケーションを
している企業はまだほとんどいないといっても過言ではないでしょうか。
まだまだやるべきことはいっぱいあります。

全編勇気のみなぎる本でした。
自分が学生のときにこの本を読んでいたらどれだけ勇気付けられたことだろう。
こんなに明快に伝えることのできる先人は皆無でした。

これから社会に出る学生の方から、経営者の方まで、ご一読をお勧めします。
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