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2008年03月24日(月)更新

モノの美しさはどこから来るのか?

ひょんなことで東京で知り合ったJohn Alderman さん。
その頃は別の仕事をしていたのだけれど、
「ちょっとアメリカに戻るんだ」といって別れて2年ほど経ったとき、
「こんど古いコンピューターの写真集を出すんだ」とメールをもらった。
とても興味深い本だ。

そして今回、晴れて日本語版が出版されることになった。

Core Memory ―ヴィンテージコンピュータの美
John Alderman (著), Mark Richards (写真), 鴨澤 眞夫 (翻訳)

チョイスやその解説に独自の視点が光る。
加えて写真がすばらしい。イメージは、その写真を撮影した写真家
のMark Richards さんのサイトで一部を見ることができる。
http://www.corememoryproject.com/main.php

mark

コンピューターの出現と進化は、ほぼ私自身の生まれ育ちとシンク
ロしている。
小学生の頃、横浜駅前のビルの一階で大きなパンチングカードの
じゃばらを吐き出すマシンや、オープンリールのテープが不規則に
「シュッシュッ」と回るのを不思議そうに眺めていたものだ。
就職した1983年当時は、まだ日本語ワープロ(初代キャノワード)
は机にCRTモニターが埋め込まれているタイプのものだった。
(たしか250万円ぐらいだったか)

パソコンはなく、ネットワーク端末は英語のみのグリーンモニターで、
電気のついていない週末に休日出勤すると妖しい緑色の点滅が
ここそこで瞬いていて不思議にハイテクな雰囲気が漂っていた。

「形態は機能に従う(Form follows function)」とはフランク・ロイド・
ライトのお師匠さんの一人でもあり、シカゴ派の代表的な建築家の
ルイス・ヘンリー・サリヴァン(Louis Henry (Henri) Sullivan氏の有
名なことばとして20世紀の近代デザインの基本となった。

上記のような時代感や思い入れもあるのだが、この本を見ていると
それ以上の芸術性すら感じる。まるで現代彫刻を見ているかのよう
な気持ちにさえなってくるのだ。

クルマでも電子機器でも、1980年代ぐらいまでのものづくりには
まだ作業そのものの非効率さが情報技術によって解決されていな
かったから考える時間が潤沢にあったような気がする。

「なんとなく安っぽい」

「なんとなく飽きる」

「なんとなく2年で買い換える」

最近の「モノ」に感じるそんな気分を払拭すべく、デザイナーやクリ
エイティブディレクター諸氏にはソフトウェアやITツールで問題を解
決する以前に考えなければならない事にもっともっと気づき、それ
に時間をかけて欲しい。
この本にはそんなヒントが詰まっている。

そしてまた私も、20年前に買ったQuadra700をまだ捨てられずに
いる。この6面抜きの直方体の箱には、何かがあるのだ。