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2008年09月30日(火)更新

天才アラーキーの眼を磨け 荒木 経惟 (著)

週末にはおおよそ夢遊病者のように古本屋に立ち寄る習慣が付いてし
まった。
今週、ふと目に入った本は写真家、荒木経惟さんの「天才アラーキーの
眼を磨け」という本だった。

araki

あまり目にしない本だと思って手に取ると、なんと対談集で、しかもそ
の対談相手が竹原あき子さんなのだ。

竹原あき子さんといえば、私の前職である工業デザイナー界の大先輩で、
現在は和光大学表現学部芸術学科教授でもあられる。
私はプラスチックという素材がいまだに大好きで、彼女の「魅せられて
プラスチック―文化とデザイン」という本は、工業デザイナーをやめてから
読んだぐらいだ。
とまれ、その竹原さんが荒木さんと同級生だったということで、フランク
でテンポの良い会話から荒木さんの想いがストレートに伝わってくる。

荒木さんは時にぶっきらぼうな物言いになるが、実は非常に良く考えて
モノを言っている。別の言い方をすれば彼の写真と同じで突き詰められ
ているから無駄がない、ということなのだろう。
この本は対談集だが、まさに天才アラーキーのエッセンス、名言にあ
ふれていた。

「シャッターチャンスは神が与えてくれるものなので、逃すはずがない」

「良くヌード写真のことをいわれるが、一番”真っ裸”なのは、実は人
の顔だということにあまりにもみんな気がついていない」

「人の顔を撮ればすべてがわかる。ただ女性の顔は50過ぎじゃない
と語るものが少ないのでなかなか写真にならないんだ」

「芸術家は自殺する奴はいるが、写真家は自殺しない」

「朝、目が覚めたらバルコニーから青空を撮る。眼を磨くんだよ。毎朝
歯を磨くみたいに」

「良い写真を撮るコツは量を撮ること。量は質を凌駕する」

「レンズで撮るもんじゃないね。知性が先に走ったらいい写真なんか撮
れないってこと」

「写真はやはりアナログが良い。アナログの写真は現像するときに一度
濡れる。それが重要なんだ。デジタルはプロセスが乾いているのが問題」

「みんなPCや携帯で同じ文字を打っているだろう?あれじゃ気持ちなん
か伝わらないよ。自分の字を書く。自分の声で伝える。それが大事だ」

「写真には”情”が写る。被写体に対する思いやりと慈しみ、つまり情を
写してあげる気持ちが必要なんだ」

自分で撮ってみてわかるが写真を写真たらしめるのは、やはり想いだ。
そう考えるとこの本で言っていることはほぼ「コミュニケーション論」と捉
えても差し支えない内容だ。

何を伝えるか、ではなく、どうしたら伝わるか、そんなヒントを沢山いた
だいた。

2008年02月05日(火)更新

インターネット系雑誌の休刊が相次ぐ

ここのところ立て続けにインターネット系の雑誌の休刊の知らせが
届いている。
昨日はウェブフラッシュ。そして今日はヤフーインターネットガイドだ。

ウェブフラッシュはいわゆるWEB制作会社の作品紹介のような雑
誌(ムック)だが、制作費の推移や現場担当者へのアンケートなど
貴重な定量情報も掲載していたので、それなりに価値はあったの
だが、そもそもの掲載事例が均質化してきており、製作会社の宣
伝にはなるもの、買ってみる側にとって目が慣れてきて新鮮味が
薄れてきた、といえなくもない。

また、ヤフーインターネットガイドはコンスーマ向けのインターネット
情報誌として先駆者だった日経ネットナビなきあと、毎回読み応え
のある充実したコンテンツで面白かったのだが、自分にとっては
「読みきれない・おなかいっぱい」という印象がぬぐえなかった。
Newsingバザールなどのソーシャルニュースサイト、キザシ
クノラティ
などのブログ検索が発達すると、オンタイムの話題性や
人を通して紹介され、そこにシンパシーを感じることの方が情報を
得るプロセスとして雑誌よりもモチベーションが高くなることもある
のだろう。

これらの雑誌以外にも昨年は社会現象にまでなった「LEON」の
女性版として登場した「NIKITA(ニキータ) 」や駅のキオスクでつい
手にとってしまう「ダカーポ」、注目していた「日経EW(イー・ダブリ
ュ)」なども休刊になった。ネット・PC系ではハッカー御用達の「ネ
ットランナー」、これも記事の寄稿でお世話になった「月刊ソリュー
ションIT 」なども同様だ。地味だが内容の濃い、良い雑誌にとって
は生きにくい時代なのかもしれない。

海外では90年代からネットビジネスの時代の代表的雑誌として
出張時に良く空港のターミナルで手に取った「Business2.0」も休刊。
元々メディアミックスでネットと雑誌の融合で名を馳せていた雑誌だ
ったが現在はCNN傘下に入り、CNNMoney.comにリダイレクトされ
ている。反面、ただで記事が読めるようになったので、休刊も時代
の流れ、といえるかもしれない。

画面で長文を追うことがだんだんつらくなってきた自分にとって、
すべての情報がネットや携帯に置き換えられることはあまり歓迎
するものではない。(プリントアウトも横書きの長いコラムでは読み
にくい)
この時代にあっても雑誌や本、新聞などのペーパーメディアの(復権
とは言わないが)新たな存在意義を願ってやまない。

2007年04月05日(木)更新

出版記念告知:「心の癒し・骨董市」

あるカルチャーセンターの講義がきっかけで知り合い、かれこれ10年近く
わたしたち夫婦を家族ぐるみでかわいがってくださるアンティークコレクター、
著作家の末続尭(すえつぐたかし)先生がる。

末続先生はいわゆる「目利き」にとどまらず、それらをどう愛でるか、楽しむ
か、という視点があるので著作を読まれていても、コレクションやお言葉に
ふれても、とても暖かいものを感じるのだ。
たとえば、出版者の関係で残念ながらすでに廃刊になってしまったのだが
「日本のアールデコ」という本はとてもユニークだ。

アールデコといえば20世紀初頭に欧米で大きなムーブメントとなった装飾
芸術様式だが、日本における展開を体系立てて解説した本は少なく、
「こんなものにデコを感じるのか」という視点のユニークさに敬服した。

そんな先生の待望の新書が出た。
たまたま別の友人のセミナーに出席するので参加できないが、今日4月
5日、19時から新宿の紀伊国屋でサイン会も催されるそうだ。

よい意味で物好き、そして色気とスケベ心を失わない、とってもチャーミン
グなおじさまだ。

心の癒し・骨董市 見るたのしみ、買う楽しみ、使う愉しみ
末続尭/著


解説引用:

昔は店のガラス戸を開けなければ買えなかった骨董も、現在では屋外屋内
含め、たとえば関東周辺だけでも月間延べ四十日もの市が立っている。その
他に会員同士の売買を仲介するオークションの組織も広がりを見せてきた。
三十年ほど前までは正札もつけず、客の顔色を窺って値段を小出しにしてい
た商品も、いまでは値札が付き、気兼ねなく手に取って見ることが出来る。
千円札を何枚か、ポケットに入れて行ってみよう。
身近で奥深い大人のワンダーランド。


[目次]
1 骨董って何だろう;
2 ホビイ商品、フリマ商品は骨董か;
3 何故人は骨董に惹かれるのだろうか;
4 隗より始めよ(骨董収集の動機);
5 骨董屋さんはどういう人達だろう;
6 骨董市を訪れる前に決めておくこと;
7 さあ骨董市に出掛けてみよう;
8 骨董品のチェックポイント;
9 海外の骨董市にも出掛けてみよう;
10 国際オークションにも簡単に参加出来る;
11 本物と贋物;
12 手軽な骨董;
13 骨董と生活空間

いいなと感じさせてくれる物、懐かしさを呼び覚ましてくれる物、そんな骨董たち
との出会いを演出してくれる、骨董市の魅力を解説する

2007年03月21日(水)更新

大企業のウェブはなぜつまらないのか

「大企業のウェブはなぜつまらないのか」
本荘修二 (著)



非常にキャッチーなタイトルで、私自身の興味とシンクロしているの
だが、著者の本庄さんが冒頭で書かれているように、WEBの本では
なく、

「経営にとってのオンラインコミュニケーションの課題」

について書かれた本だ。

前半はソーシャルコンピューティングの解説が多いのだが、最後の章
で「社内の組織的な関与が欠落している」
と、いつも僕が言っているようなオチになっている(笑)。
この本は、とても画期的だが、大きな流れの序章に過ぎないと感じた。

実は昨晩、この出版記念パーティーがあり、たまたま本庄さんを知る
私のサラリーマン時代の先輩に頼み、参加させていただいた。

著者ご本人からご紹介いただく光栄を預かりながらも、上記に書いた
「序章に過ぎない」ということが確認できたことが大きかった。

この本のアマゾンの書評を見ると大きく意見が割れている(笑)。
実際、本庄さんが説いている事(僭越ながら私も同じ思い)を企業が
理解し、実践するまでにはかなりのハードルとプロセスがある。

私自身は現場のコミュニケーション担当者をサポートしながら、その
道を作っていこうと考える。


関連情報だが、昨年わたしが参加した「New communication forum」と
いうシリコンバレーで開かれた会合の本年度のセッションでのエピソードを
「Corporate Conversation」の著者、Shel holtsが、最近彼自身のブログで
こんな風に言っている。

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The value of company websites
http://blog.holtz.com/

今年のNew Communications Forumで繰り返されたテーマのひとつに
「企業WEBサイトの価値」がある。パネルスピーカーのデヴィッド・ワイン
バーガーやジョン・ベル(オグルヴィーPR)は、

「人々は、Googleで検索し、ブログスフィアでつながり、その会社のWE
Bサイトを訪れる前にどの会社がどんなことをやっているのかを探し出す。
それでも企業のWEBサイトに訪れるとすれば、その企業の見解や考え
方を得るためだけで、そこに最終的な判断を受け賛同するためではない」

と述べているが、私自身は企業WEBサイトの中のメディアルームやIRサ
イトがジャーナリストや投資家にとって有用性があると感じているし、マイ
クロソフトのように透明性を持ってオープンなコミュニケーションを行う企業
もあるので、そんなにソーシャルコンピューティングが企業WEBの価値を
奪い去るものとは思えない。
======================================================

上記の本と同じ観点だ。
まだまだ企業は企業WEBサイトのポテンシャルを活かしきれていないのが
日本でも米国でも現状なのではないだろうか?

2007年01月09日(火)更新

計画された偶発性~書評:好きにやっても評価される人、我慢しても評価されない人

好きにやっても評価される人、我慢しても評価されない人
小杉 俊哉 (著) ¥ 1,365 (税込)
PHP研究所 (2006/9/26)


小杉さんは、尊敬する「仲間」の一人だ。
今までも、何度となく仕事をご一緒させてもらった。

既に何冊も本を書かれていて、 この本は昨年紹介した「ラッキーを
つかみ取る技術」に続く本だ。 テーマとしては全てのビジネスパー
ソンに、「評価」の側面からキャリアの形成を 語ったものだが、既に
独立している私のような人間にとっても、多くの示唆にとん だ内容
だった。
人材を採用する立場から見ると、スキルや適性試験での判断はあ
まり信用できない というのが定説で、一番信頼できるのが「顔つき」
で判断する事だ、というのが痛快 だ。なぜなら変化の激しい今のビ
ジネスにおいて、人間力が大きく問われ、それは まぎれもなく「顔
つき」に表れるのだと言う。

また、あまり「自分はこうありたい」というプランに沿ったキャリアを
歩むよりも 非主流や新規部門での仕事が「自律」を促し、その力
が不確定な時代の先見力を磨く という。
「顔つき」にしても「自律」にしても、言わんとする事は「技能」や「知
識」などの 「ハードスキル」に対する「ソフトスキル」の重要性だとも
言える。

このような面を無視して、企業の成長に合わせて一般的な人事評
価システムを導入し、会社の雰囲気がおかしくなってしまったベンチ
ャー企業をたくさん見た、という話は、読んでいて寒気をおぼえるく
らいリアルだった。
一番強烈なのは、米国で数百人に及ぶ成功したビジネスパーソンの
キャリアを分析し たスタンフォード大学のクランボルツ教授の調査結
果で、その8割は「いまあるキャ リアは予期せぬ偶然に因るものだ」
と答えているのだ。
それを「Planned happenstance(計画された偶発性)」と呼んでいる
そうで、最初 にキャリア目標を置くよりも、自分にとって好ましい偶
然が起こりやすくなるような 行動を日頃からとることが肝要だと説い
ている。

目標の貫徹にあと何が足りないだろう、と考えると、ない事だらけで
笑ってしまうほかない。

しかし今までやってきた事が不思議とすべて布石になっている、と
思える自分が今あれば、この本はさらに背中を押してくれる。
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