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2006年12月20日(水)更新

年末のオススメ:書籍編

年末の読書というと、やはりビジネス書を読まれる方も
多いかと思いますが、少し視点を変えられる本をご紹介
します。
芸術起業論
村上 隆



私自身がデザイナーだった頃、よく社内外の方から、
「良くわからないけど、クリエイティブな仕事でかっこいい
ねぇ」
と言われました。

もちろん皮肉です。

結局デザインの価値をきちんと他のプロフェっションを持つ
人に説明できないところが多くのデザイナーの悪いところ
です。

昔エントリーで書いたことがありますが、レイモンドロウィー
などは究極の他者理解のかたまりで、
「どれだけデザイナーとしての自分のエゴを消し去れるか」
がキーでした。

村上さんも、アプローチは近いものがあります。
芸術家が、自分の考えを世に問うためには、今まで脈々と
行われてきたアートの文脈を理解し、その上で新しい価値を
提示できるかどうか。そしてその価値を認めてくれた人に
対し、持続できるかどうか、が大事だと解きます。

芸術の歴史を学習し続ければ、どんどん自由になれる。
芸術の歴史の文脈の引き出しを開けたり閉めたりすることが
価値や流行を生む。
引き出しを知らずに作られた作品は「個人のものすごく小さな
体験を基にした面白くもなんともない経験則のドラマに過ぎな
い。まるで小さな浪花節だ」
と言い切ります。

これはファッションやデザイン表現も同じような気がします。

大学で学ぶときに、このような視点をもてていたら、と思いま
すが、デザインやコミュニケーションのような定量化しにくい
価値の重要性を共有してもらいたいと思うとき、アプローチの
ヒントにあふれた本だと思います。

2006年11月21日(火)更新

松岡正剛さんの書評:「千夜千冊」グーグル・アマゾン化する社会

松岡正剛さんがやっている脅威の書評サイト、「千夜千冊」で、
森健さんのの『グーグル・アマゾン化する社会』をとりあげている。

http://www.isis.ne.jp/mnn/senya/senya.html

梅田望夫さんの『ウェブ進化論』や佐々木俊尚の『グーグル』など
との内容比較に始まり、SEOやレコメンデーションエンジンにまでも
解説が及ぶ。

途中でインプレスR&D代表の井芹昌信さんの話ががでてくるが、
ぼくがサラリーマン時代にネットで最初の事例を作ったとき、ちょうど
インターネットマガジンが創刊され、インタビューかたがた、井芹さん
とも何度かお話をさせていただく機会をいただいた記憶がある。

10年たってきらめいては消えていく人が多い中で、じっと日本の
インターネットを見据えている、数少ない人の一人だなあというのが
印象だ。こういう人は消えない。

松岡さんのお話の中では、
====================================================

せめてアクセス数や従事率ではなく、そこに多様なキラーテクノロジ
ーが自在に開花し、そこに痛快なコースウェアや深々と感じられる学
習機会が生まれていってほしいのだ。
時代がそろそろキーワード主義(小泉時代も終わったのだから)から、
コンテキスト主義に移ってほしいのだ。

====================================================

という言葉が印象的だった。

時代的には「WEB標準化」という流れがあるが、それを乗り越えた
ところにもう一度自由を見出そうとしているようだ。

ただ、松岡さんに言及されているグーグル自身も、

”イノベーションを起こすには、会社を「カオス状態」と「きちんと構造化
された状態」の間の "structured chaos"(構造化されたカオス)と呼ぶ
状態に置くのが一番良い”

といっているところが興味深い。
http://satoshi.blogs.com/life/2006/10/googlestructure.html

どっちが上手出し投げか、けたぐりか。(笑)

2006年10月02日(月)更新

愛読雑誌「Communication Arts」

ミクシィにも「雑誌が好きすぎて死ぬ」というコミュニティに参加
している雨宮です。

月にほとんど定期購読状態で買っている雑誌が10誌近くあり
ます。
半分ぐらいはビジネスや広報・コミュニケーション系のものです
が、大好きな音楽やインテリア、雑貨、デザイン系のものも、見
るとついつい買ってしまいます。

洋書はビジネスウィーク(ほとんど写真をスクラップするため)の
定期購読していたのですが、3年とってやめてしまったため、残
るは1冊のみとなってしまいました。

で、本日紹介するのがその最後の1冊「Communication Arts」
です。
Communication ArtsCommunication Arts
この雑誌は、商業デザインに関する隔月刊の雑誌(ムック)で、
フルカラーで広告、ポスター、CM、イラストレーション、写真、サ
インデザイン、CI、WEB、企業出版物の編集デザインなどの
最新の事例を、フルカラーで紹介しています。

あわせて年間1冊ずつ、イラストや写真、グラフィックデザイン、
インタラクティブ(フィルムやウェブ)のアニュアル(別冊)も発行
されます。
年間購読料は110ドルですので、1冊の単価は1000円ちょっと。
洋書雑誌を扱うお店では3000円近くしたりするので、とてもお得
です。

一番の魅力は、なんといっても米国を中心に世界の最新の事例
に触れられることと、その品質の高さです。
ビジネスコミュニケーションの中で、デザインやビジュアルの要素
の重要性が伝わってきます。

日本でも「アイディア」誌など、近いコンセプトのグラフィック雑誌や
「+81」のように挑戦的に新しいグラフィック表現を模索する刺激
的な雑誌がありますが、このような洋書雑誌の良い点は、ある意
味日本国内の「流行」みたいなものを感じなくてすむところにあり
ます。

昔デザイナーだったときにも強く感じていたのですが、日本のもの
ばかり見ていると、情報源が画一的なせいか、発想がみな近くな
ってしまうことが少なくないのです。

ネットにももちろん海外の有益な情報はあふれていますが、閲覧
性の高さや光の色ではなくインクの色、というのも、この雑誌の魅
力です。

お近くでしたらオフィスに見に来てください。

http://www.commarts.com/

2006年09月12日(火)更新

芸術起業論 (単行本) 村上 隆

芸術起業論 (単行本)
村上 隆

現在は企業コミュニケーションのお手伝いをしている私ですが、元々は
美大のデザイン科を卒業して最初の10年は工業デザイナーをやってい
ました。

同級生には絵画科や彫刻科も多く、当時ほぼ100%大手企業に就職
できた工業デザイン専攻とはちがい、彼らの多くは教職につくか、日銭
を稼ぎながら年に数回個展や展覧会を開く、といったライフスタイルでし
た。

その中で一人だけ、非常にマーケティングセンスに優れた女性がいて、
彼女は積極的に現代美術ビエンナーレ等の活動をやっていました。

うがった見方をすれば、自分を売り込むために何でもやるのか、というよ
うに見られなくもありませんでし、友人の間では少々浮いた存在に見られ
ていましたが、現代美術を取り巻く世の中がどうなっているのか?その中
で自分が生きていくためには何をすればよいのか?
考えれば至極当然のことを彼女はやっていただけでした。

逆に自分の芸術だけを信じ、「いつかは認められるときが来る」と思って
続けている友人も、30代半ばを過ぎてのフリーターライフはきつく、ひ
とり、また、ひとりとそれぞれ仕事を持つようになって行きました。

村上さんのこの本はとても明快でした。
現代美術を志すひとだけでなく、なにより働く価値の転換期にある現代
においては、すべての人に共通する「知っておくべきこと」が書かれてい
るような気がします。
もはや終身雇用の時代ではなく、企業は自分の人生をゆだねる寄る辺
にはなりえません。
自分が何をやりたいのか?そこで成功するためのアプローチとは?
そんなヒントが書かれています。

特に、
「なぜ日本の芸術家が世界に通用しないのかというと、文脈の設定に対
する理解不足と人間と人間の勝負に弱い」
という文章には、
単に作品の芸術性そのものだけでなく、自分の表現やアートにどういう価値
があるのか、ということを相手に伝えるコミュニケーション能力(プレゼン
テーション能力)が重要だということが伝わってきます。

それは芸術だけの話ではありません。

「そんなこと、言わなくても常識だからわかってくれるだろう?」ということで
はビジネスは成り立たなくなってきているのです。

「好きなように生きる」と「自分の興味を究明する」は違う、と説きます。
文脈の歴史の引き出しを開けたり閉めたりすることが新しい価値を生むので、
引き出しを知らずに作られた芸術作品は「個人のものすごく小さな経験則の
ドラマに過ぎない。そんなものは小さな浪花節だ」といいます。
歴史を学習して始めて自由な表現ができる。とも。

私たちはもっと伝達(コミュニケーション)能力をみがかなければ、いつまで
たっても世界共通の土壌で戦えない。

私は仕事で、主に企業のオンラインコミュニケーションを見ています。
「インターネット」といいながら、真にインターナショナルなコミュニケーションを
している企業はまだほとんどいないといっても過言ではないでしょうか。
まだまだやるべきことはいっぱいあります。

全編勇気のみなぎる本でした。
自分が学生のときにこの本を読んでいたらどれだけ勇気付けられたことだろう。
こんなに明快に伝えることのできる先人は皆無でした。

これから社会に出る学生の方から、経営者の方まで、ご一読をお勧めします。

2006年09月01日(金)更新

なぜ日本企業では情報共有が進まないのか?

「なぜ日本企業では情報共有が進まないのか?」
田坂 広志


田坂さんのこの本が上梓された1998年に私は独立しました。
言ってみれば、自分の起業の根っこにあった思いを代弁して
くれているような本でした。

ビジネス書は5年もすると古くなって使いようもなくなることが
多いのですが、真理に触れている本はそうならないものですね。

この本は、ビジネスにおいて、特にIT化によって引き起こされる
コミュニケーションの不可視化の弊害の解決を、「ナレッジマネ
ージャー」という管理職のマネジメントスタイルにあててわかり
やすく解説しています。

毎日同じようなことを書いている気がしますが、
企業WEBサイトやイントラネットについて、「何をするのか?」とか
「どう使うか?」とか「どんな機能を持たせるか?」というような悩み
をお持ちの企業様からの相談が増えています。

しかし、お話を伺えば、おのずと根源的にツールやテクノロジーだけ
では解決できない問題があることに気がつきます。

久米さんもよく語っているように、ブログは人に自分の思いをひけ
らかすためではなく、自身の思いを整理するために使うものだと
思います。
自分で書いて自分でその知見を積み重ね、再利用できる。
企業コミュニケーションもその延長のような気がします。
自分に対するホスピタリティの延長に、自分の部署、あるいは
組織、あるいは社会に対するホスピタリティがある。

こんな積み重ねをしていけるナレッジマネージャー。そしてそんな
彼、彼女に率いられた組織であれば、その思いを最大限に活用する
ツールを見出すのはそんなに難しいことではないのです。

久しぶりに本棚から出してページをめくり、8年たってもあまり状況は
変わっていないなあ、という思いを持ちました。
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