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2010年11月12日(金)更新

手のうちの小宇宙~佐藤透「コアガラス」展

今週セミナーでお世話になった銀座の共同PRさんのオフィスビルの1階に「ギャラリー田中」という、素敵なギャラリーがあります。

いつも素通りできず足を止めることが多いのですが、今回も引き込まれてしまいました。

佐藤透さんという、奇しくも同い年の作家さんのコアガラスの展覧会でしたがなかなか素敵でした。
日本人好みのする、まさに「景色」が存在する繊細な作品ばかりでした。
手間や価値から考えれば、決して高くないものですが、一見で手を出すことはさすがにはばかれました。

実はバンクーバーにカナダ人の吹きガラスのアーティストの友人がおり、コレクターではありませんが彼の作品を6本ほど持っています。
会いに行ったときにやってみろといわれましたが、吹きガラスは全身で踊るようにガラスと関わるものなので、もちろん形にすることすら出来ませんでした。

たまたまお客様の切れ目だったため、作家の田中さんと少しお話をさせていただきましたが、件の吹きガラスの話をすると、

「吹きガラスが【動】だとすれば、コアガラスが製法も表現も対極で、まさに【静】」
とおっしゃっていました。

ちなみに「絵付け」された模様も、全てガラスの細い色棒の加工でなされています。いわゆる「絵の具の絵付け→焼き入れ」ではありません。

展覧会は明日13日まで。
もし近所でお時間のある方は、見に行かれてはいかがでしょうか?

佐藤透「コアガラス」展
http://marblepocket.com/blog/index.php?/archives/339-unknown.html

2009年03月01日(日)更新

ウイリアム・モリスから民芸まで~東京都美術館

今日は上野の戸美術館に
「生活と芸術 アーツ&クラフツ展 ウイリアム・モリスから民芸まで」を
見てきた。

morris1

http://www.tobikan.jp/museum/arts_crafts.html


入ると最初の壁に大きくこう書かれていた:

「役に立たないもの、美しいと思わないものを家に置いてはならない」

はあ。もうこう言われると、展覧会場の中では我が家を思い出しては
ため息をつき、うなだれることしかできなかった。
ウィリアムモリスの壁紙や家具などもすばらしいのだが、同時代の
家具や食器、書籍などのデザインは、ヴィクトリア&アルバートミ
ュージアムが集めただけのことはあってなかなか良いチョイスだ。

むかしイギリスに行ったとき、大英博物館はエジプト系を中心に数
時間しか見なかったが、V&Aは昼食をはさんで半日以上費やした。
(そのときは特別展でロックアーティストのコスチューム展をやっ
ていて、ジミヘンやフレディのジャケット、マドンナのピンヒール
やジーンシモンズのブーツ、エルトンジョンのメガネコレクション
などを展示していた)

図録の出来もよく、2400円は納得できる。

都美術館を出たら、そのまま上野動物園の方向に右に出て、児童公
園の向かいに小さなカフェがあるのだが、ここは穴場だ。
その場で作って焼くピザ(450円~850円、安い!うまい!)と
飲み物はカップを買っておかわり自由!
しかもコーヒーが濃くておいしい。寒い今時はとても暖まる。

お土産は動物園の入り口の左にある桜木亭の「パンダ焼き」。
パンダはいなくても、これ!(パンダ焼きUSBメモリーも売っている)

何と充実して、安い休日だ。(笑)

2008年09月24日(水)更新

色と線:ジュリアン・オピー展@水戸芸術館

秋分の日の昨日は家族で早起きして水戸芸術館までジュリアン・オピーの
展覧会を見に行ってきた。
片道120キロのちょっとした小旅行ではあったが、すこしだけ早起きしたお
かげで、初秋のさわやかな天気とあいまって良い気分転換のドライブにな
った。

opie exhibition

http://www.arttowermito.or.jp/art/modules/tinyd0/index.php?id=1
ジュリアン・オピーといえば、最近では表参道ヒルズのグラフィック、ちょっと
前ならロックバンド「Blur」のCDジャケットデザインで有名なイギリスのアー
ティストだ。

hills

オピーは1958年ロンドン生まれだからほぼ同世代だ。現代美術を学ぶ傍ら
葛飾北斎や安藤広重など、江戸時代の浮世絵作品の構図や表現方法か
らも大きな影響を受けているようだ。

ただ、その簡素化された線や表現は、浮世絵のものとも異なり、表情の切り
取り方や足首の切り取り方など、さらなる要素のマイナスの方向性によって
彼独自の饒舌な表現がなされている。

もうひとつは「色」だ。例えば似たようなポップ表現であっても、明らかにリキ
テンシュタインとは違う。私が感じたのは、同じく浮世絵の感覚にモダニズム
のフィルターをかけた川瀬巴水や小泉癸巳男の版画と近い色気だ。

オピーの表現のオリジナリティはさらに「動き」の要素が加わることだ。
人の動きや風景の移ろいがコンピュータグラフィックやレンチキュラー印刷で
再現されているのを見ると、簡素化された線や色の意味が理解できる。

彼自身のウェブサイトに行けば、これらの一部が再現されている。

opie0
http://www.julianopie.com/

下の2枚はクリックすると動きが見られます。

opie1

opie2

水戸芸術館は空間設計も展示もすばらしい。うちの小学生と幼稚園の子供
たちは、休日に「美術館に行く」というとすねることが多いのだが、ここは
タワーの展望室や前庭なども子供が楽しめる要素があり、喜んでいた。


会期はあと2週間だが、水戸まで足を運ぶ価値は高い。オススメの展覧会だ。

2008年06月09日(月)更新

学ぶ機会はどこにでもある

週末、免許更新のため朝6時に起きて府中の運転免許試験場に行って来た。
この更新の間、北海道で免停ギリギリのスピード違反を取られていたので
15年維持していたゴールドとおさらばして2時間講習を受けだのだけど、
これが意外に新鮮だった。

優良講習の場合、20分程度のビデオと法改正の要点ぐらいだが、我々
違反累積者向けの講習の場合、教務官が2時間話芸で押し通す。
ただでさえ自分から聞きたいと思って集まっているわけでもない100
人を前にそのすばらしい緩急、押しと引き、リズム感、目線、繰り返し。
毎日やっているだけにさすが、これは名人芸だと思ってとても感心した。
こんな事メモっている奴はいないだろうけど、朝から本当に勉強させても
らった。
細かい事だが彼は集中力の限界を「15分」とみていたようで、一つのト
ピックをそれ以上延ばさず、まとめを繰り返し、ひと息ついて周りを見回
して居眠りを注意、というルーチンを持っていた。

流石につかみの冗談は無かった(できない)けど、個人的なエピソード
(リアル感)も良いバランスで分布させていた。

さっそく新しいICチップ入りの免許を受け取り、午後からは家族と合流
してちかくにある「府中市美術館」に「ゆかいな木版画展」
を見に行ってきた。
yukainamokuhanga

府中市美術館は府中の森公園の中にあり、とても落ち着いたロケー
ション。
日曜日だというのに、公園自体も美術館もそんなにこんでいなくて
とても快適だった。

一見地味な展覧会だが、木版画の持つ独特のやわらかさ、おおらか
さがあふれており、全体的に力の抜けた感じがとてもほのぼのする。

絵はがき付き図録1600円もこの内容からすれば安いといえよう。
この美術館はなかなか立派で、視聴覚室では影絵芝居も上演してい
て子供も飽きさせないほか、常設展の牛島憲之さんの絵も幻惑的な
光に満ちていて素晴らしかった。

全部見て大人一人300円は安い!
また一日ゆっくり過ごせる穴場を見つけられてうれしい。

2008年03月24日(月)更新

モノの美しさはどこから来るのか?

ひょんなことで東京で知り合ったJohn Alderman さん。
その頃は別の仕事をしていたのだけれど、
「ちょっとアメリカに戻るんだ」といって別れて2年ほど経ったとき、
「こんど古いコンピューターの写真集を出すんだ」とメールをもらった。
とても興味深い本だ。

そして今回、晴れて日本語版が出版されることになった。

Core Memory ―ヴィンテージコンピュータの美
John Alderman (著), Mark Richards (写真), 鴨澤 眞夫 (翻訳)

チョイスやその解説に独自の視点が光る。
加えて写真がすばらしい。イメージは、その写真を撮影した写真家
のMark Richards さんのサイトで一部を見ることができる。
http://www.corememoryproject.com/main.php

mark

コンピューターの出現と進化は、ほぼ私自身の生まれ育ちとシンク
ロしている。
小学生の頃、横浜駅前のビルの一階で大きなパンチングカードの
じゃばらを吐き出すマシンや、オープンリールのテープが不規則に
「シュッシュッ」と回るのを不思議そうに眺めていたものだ。
就職した1983年当時は、まだ日本語ワープロ(初代キャノワード)
は机にCRTモニターが埋め込まれているタイプのものだった。
(たしか250万円ぐらいだったか)

パソコンはなく、ネットワーク端末は英語のみのグリーンモニターで、
電気のついていない週末に休日出勤すると妖しい緑色の点滅が
ここそこで瞬いていて不思議にハイテクな雰囲気が漂っていた。

「形態は機能に従う(Form follows function)」とはフランク・ロイド・
ライトのお師匠さんの一人でもあり、シカゴ派の代表的な建築家の
ルイス・ヘンリー・サリヴァン(Louis Henry (Henri) Sullivan氏の有
名なことばとして20世紀の近代デザインの基本となった。

上記のような時代感や思い入れもあるのだが、この本を見ていると
それ以上の芸術性すら感じる。まるで現代彫刻を見ているかのよう
な気持ちにさえなってくるのだ。

クルマでも電子機器でも、1980年代ぐらいまでのものづくりには
まだ作業そのものの非効率さが情報技術によって解決されていな
かったから考える時間が潤沢にあったような気がする。

「なんとなく安っぽい」

「なんとなく飽きる」

「なんとなく2年で買い換える」

最近の「モノ」に感じるそんな気分を払拭すべく、デザイナーやクリ
エイティブディレクター諸氏にはソフトウェアやITツールで問題を解
決する以前に考えなければならない事にもっともっと気づき、それ
に時間をかけて欲しい。
この本にはそんなヒントが詰まっている。

そしてまた私も、20年前に買ったQuadra700をまだ捨てられずに
いる。この6面抜きの直方体の箱には、何かがあるのだ。
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